津家庭裁判所 平成2年(少ハ)3号 決定 1990年7月12日
少年 S・S(昭44.9.30生)
主文
本人を平成3年4月3日まで特別少年院に継続して収容する。
理由
(申請の要旨)
本人は、平成元年7月4日津家庭裁判所において特別少年院送致の決定を受け、翌5日愛知少年院に収容されたものであるが、すでに満20歳に達しており、少年院法第11条第1項但書きの期限も平成2年7月3日までである。
しかしながら、本人の院内での生活内容は、少年院法上の懲戒処分はないものの、怠惰な生活志向と規範を軽視する構えが極めて強く、中間期教育過程(前期)においては当初の3.5か月の教育期間設定に対し6.5か月を要する等基本的生活態度に根深い問題を浮彫りにした。
一方、帰住地は、昨年9月、実父が引受けを拒否し、その後の調整もつかないため、更生保護会「○○会」「△△会」に調整したが、いずれも「受入不可」となった。その後、叔父が引受意志を表明し同所に調整「帰住可」となったいきさつがあり、保護上、次の問題点が残されている。
1 本人は前回の保護観察の経過から考えると、就労状態が長続きせず、一定の住居に居住することなく経過しており、帰住地及び職場への定着が必要である。
2 非行内容は怠惰な生活習慣から正当に金銭を得る手段を持たないにもかかわらず、自己の欲求充足のために窃盗を繰り返しており、健全な社会生活への移行を図るには、第三者による指導、援助が必要である。
3 本人の非行の背景には、両親に対する甘えがあり、そこからくる他者依存の傾向には相当根深いものがある。そのため、独立自活をさせるよう徹底した指導を行う必要がある。
このため、別添1「特別指導計画」を重点に指導し、院内教育目標を達成させたのち社会内処遇に移行し、独立自活への方向づけをさせることが必要である。
ところで、本少年は、現在の成績で推移すれば、本年9月1日に出院準備教育過程(1級上)に編入される予定であるが、現時点での収容期限が本年7月3日までであるため、当初の教育計画どおり1級上の期間を3か月確保し、出院後の一定期間、保護機関による指導監督のもとで、就労意識、親子関係修復について、徹底した補導援護が不可欠と考えられるので、本年7月4日から9か月の収容継続申請をするものである。
(当裁判所の判断)
1 申請書添付書類の他当裁判所調査官○○作成の調査報告書二通及び意見書、前件までの少年調査記録、本人の当審判廷における供述を総合すると、次の事実が認められる。
<1> 本人は、平成元年7月4日愛知少年院に収容され、院内での生活で大きな規則違反はしていないものの、全体に与えられた課題は消化すればよいという消極的姿勢が目立ち、特に新入時にはやけになり、どうにでもなれというなげやりな態度が多く、院で計画された新入時教育(2.5ヵ月)、中間期教育(前期、3.5ヵ月)をそれぞれ約1ヵ月、約3ヵ月遅延して終了せざるをえず、現在施されている中間期教育(後期、3.5ヵ月)も計画期間内に終了できそうにない状況である。このため、本人は院で計画された最終の処遇計画である出院準備教育(3ヵ月)を平成2年7月3日までに終了させることができないのはもちろんのこと、それに入ることさえできない。
<2> 右出院準備教育中には、保護観察の反省、職業を主題とした課題作文、家族を主題とした面接指導、窃盗を主題とした集中内省が予定されており、保護観察中に窃盗事件を起したこと、勤労状態が長続きせず職場を次々替えて不安定であったこと、主に窃盗事件で家裁係属歴が七回に及んでいること、等従前の経過からすると、右教育内容は本人にとって是非とも必要である。
<3> 本人は、叔父が出院後の引受けを申し出たことから、平成2年6月ころより急にやる気を出し、院や当庁調査官それに父親にも評価されているが未だやる気をみせ始めて短期間しかたっていないのでやる気を持続させるための継続指導が必要である。
<4> 本人も、今出院すれば前と同じと思うので直ってから出たいと述べている。
2 以上からすると、本人が社会に出た際、従前の非行原因を認識し、再び同様の行動をとらないようにするには、なお少年院での教育が不可欠であるから、収容を継続する必要があるということができる。そして、その期間については、前記資料からすると、出院準備教育を終了するには約6ヵ月の遅れが生じていること、本人を出院後も社会内において経過を見るべきであること、家族(叔父の家族を含めて)の環境調整の必要があること、以上のことがいえるから院内教育に6ヵ月、その後の保護観察に3ヵ月が相当であり、結局本件申請のとおり合計9ヵ月の収容継続を認めることが相当である。
3 よって、本人を平成3年4月3日まで、特別少年院に継続して収容することとし、少年院法11条4項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。
(裁判官 浅見宣義)
参考 収容継続申請書
愛少院発第××号
平成2年6月18日
津家庭裁判所長殿
愛知少年院長
収容継続申請書
少年院法第11条第2項の規定に基づき、下記少年の収容継続を申請する。
記
1 氏名 S・S
2 生年月日 昭和44年9月30日
3 事件番号 平成元年少第923・1038号
4 事件名 窃盗
5 本籍 三重県上野市○○××番地の×
6 住居 愛知少年院在院中
7 決定日 平成元年7月4日
8 決定内容 特別少年院送致
9 入院日 平成元年7月5日
10 満期日 平成2年7月3日
11 収容継続申請理由 別紙「収容継続申請理由」のとおり
12 収容継続期間の意見 平成2年7月4日から9か月
別紙
収容継続申請理由
処遇経過
年月日
事項
年月日
事項
平成元年
7.5
7.19
9.8
9.29
10.15
入院2級下考査編入
少年院法第11条第1項但書き
による収容継続決定
反省(学習態度不良)~9.11
集中内省(~10.3)
予科終了2上進級
職業補導編入~彫金科
平成2年
5.1
1級下進級
心身
状況
IQ:70性格特性:独善的なものの見方考え方をする少年であり、ひがみや
不満を募らせやすく、投げやりな態度を示しやすい.身体状況:健康
成績の特記事項
本少年の成績経過については別添4「成績経過記録表」(編略)のとおりであ
る。
1 新入時教育過程
・教官の指示、指導には一応従って生活していたが、言い訳をしたり、課題を怠けたりすることがあった。
・新入時教育過程の目標を達成し、平成元年10月15日付けで中間期教育過程
(前期)に編入した。
2 中間期教育過程(前期)
・日課に従って生活はしていたが、生活に対する意欲に欠け、ただ漠然と生活している状態が続いていた。
・自分勝手な判断で行動することがある等、規範意識、協調的態度に欠けることが多かった。
・自分の興味のないものについては怠惰を取り組み態度であった。
・これらの点を改善させるため、個別的処遇計画を修正し、個別面接、課題作文を中心とした指導を展開した。その結果徐々に問題点の改善を見るに至った。
・中間期教育過程(前期)の目標を逹成したので、平成2年5月1日付けで中間期教育過程(後期)に編入させた。
3 中間期教育過程(後期)
・編入後の生活は一応規則に従った生活ををしていたが、職員の指示・指導に対してはその場限りで終わることが多く、同じ注意を何度も繰り返し受けることがあったため、個別面接指導を中心として、規則の意味やその重要性について指導を加えている。
・出院後の生活設計に対する考え力が固まっておらず、その重要性に対する認識も不足しているので、現在、職業生活についての重点指導を行っている。
面会通信状況
面会:1回通信:発信28回受信2回
保護状況
調整の経過については、別添3「処遇記録票」(編略)及び別添5の各「環境調整報告書」(編略)を参照
帰住予定地和歌山県伊都郡○○町○○××(叔父)S・H
少年院の意見
本少年はすでに満20歳に逹しており、少年院法第11条第1項但書期の期限も本年7月3日までと切迫している。
院内の教育計画は、別添2「個別的処遇計画表」に記載のとおり、3つの個人別教育目標を設定した教育を実施してきた。
生活内容は、少年院法上の懲戒処分はないものの、怠惰な生活志向と規範を軽視する構えが極めて強く、中間期教育過程(前期)においては当初3・5か月の教育期間設定に対し6・5か月を要する等基本的生活態度に根深い問題を浮彫りにした。
このため個別面接、課題作文を重点に指導を徹底した結果、自分の問題点を徐々に認識する姿勢を示してきた。
一方、帰住地は、昨年9月、実父が引受けを拒否し、その後の調整もつかないため、更生保護会「○○保護会」「△△会」に調整したが、いずれも「受入不可」となった。その後、叔父が引受意志を表明し同所に調整「帰住可」となったいきさつがあり、保護上、次の問題点が残されている。
1 本人は前回の保護観察の経過から考えると、就労状態が長続きせず、一定の住居に居住することなく経過しており、帰住地及び職場への定着が必要である。
2 非行内容は怠惰な生活習慣から正当に金銭を得る手段を持たないにもかかわらず、自己の欲求充足のために窃盗を繰り返しており、健全な社会生活への移行を図るには、第三者による指導、援助が必要である。
3 本人の非行の背景には、両親に対する甘えがあり、そこからくる他者依存の傾向には相当根深いものがある。そのため、独立自活をさせるよう徹底した指導を行う必要がある。
このため、別添1「特別指導計画」を重点に指導し、院内教育目標を達成させたのち、社会内処遇に移行し、独立自治への方向づけをさせることが必要である。
ところで、本少年は、現在の成績で推移すれば、本年9月1日に出院準備教育過程(1級上)に編入される予定であるが、現時点での収容期限が本年7月3日までであるため、当初の教育計画どおり1級上の期間を3か月確保し、出院後の一定期間、保護機関による指導監督のもとで、就労意識、親子関係修復について、徹底した補導援護が不可欠と考えられるので、本年7月4日から9か月の収容継続申請をするものである。
添付資料
個別的処遇計画(表)(写し)1部
処遇記録票(写し)1部
成績経過記録表(写し)1部
環境調整報告書(写し)5部
特別指導計画(写し)1部
少年院法第11条第1項但し書収容継続決定書(写し)1部
別添1-<1>
S・S少年の中間期教育過程(後期)及び
出院準備教育過程における特別指導計画
1 出院準備教育過程編入予定日……平成2年9月1日
2 教育計画
<1> 課題作文
主題……保護観察の反省(2.7.1~2.7.10)
日程
課題作文テーマ
1
保護観察を受けた心境
2
保護司の指導を受けた態度
3
遵守事項への取り組み
4
転職を何回も繰り返したこと
5
他人の物を盗むということ
6
両親に接した態度
7
犯罪に結び付いた態度
※ 課題作文の内容について、7月末日まで面接指導を実施する。
主題……職業について(2.8.1~2.8.10)
日程
課題作文テーマ
1
出院後の職業設計
2
職場における人間関係
3
職業人としての心得
4
職業と転職
5
職業と資格
6
職場が求める人間
別添1-<2>
※ 課題作文の内容について、8月末日まで面接指導を実施する。
<2> 面接指導
主題……私の家族(2.9.1~2.9.10)
日程
個別面接テーマ
1
私の両親との結びつき
2
今の家族での立場
3
両親に対する自分の責任
4
両親が教えてくれたこと
5
叔父、祖母に望むこと
6
家庭と職業について
7
理想の家族
※ 面接内容を記述させ、まとめさせる。
<2> 集中内省
主題……窃盗について(2.10.1~2.10.10)
日程
内省テーマ
1
窃盗に至る時の自分の心
2
もし自分の物を盗まれたら
3
窃盗をした後に教えたこと
4
他人の物を盗むということ
5
今までの生活と窃盗
6
物はどのように手に入れるか
7
今までの非行の反省と今後の決意
※ 集中内省の結果をまとめさせ、面接指導する。
※ 出院までに各テーマについて繰り返し指導する。特に職業生活について重点的に指導すること。
別添2<省略>